いまさら聞けないシリーズ
気を付けよう、エコノミークラス症候群
気を付けよう、エコノミークラス症候群
―長時間の飛行機移動や車の運転に注意―
8月を迎え急に暑い日が続いていますね。夏休みの休暇等を利用して帰省や旅行に行く方が多いと思います。しかし、注意しなければならないこの時期特有の疾患について紹介したいと思います。
●エコノミークラス症候群とは?
さて、まず皆さまはエコノミークラス症候群と聞いて、どのような状況を思い浮かべますか? 飛行機のエコノミークラスという名前がついていることから、一般的には長時間の飛行機移動で起こるとイメージされる方が多いのではないかと思います。では、エコノミークラス症候群とは具体的にどのような症状が起こるのでしょうか。
エコノミークラス症候群とは、旅行者血栓症、あるいは肺血栓塞栓症とも呼ばれます。飛行機、列車、自動車での長時間移動で狭い席で座りっぱなしの状態など、同じ姿勢を長時間取り続けることで起こりうる疾患です。狭い場所で同じ態勢を取り続けると血液の循環が妨げられ、たいていは足の血管内に血栓という塊が形成されます。急に立ち上がると、今まで止まっていた血液も急に流れ始め、血栓がはがれて心臓を経由して肺の動脈に達します。こうして肺の血管に血栓が詰まることで、息切れや動悸、呼吸時の胸の痛み等違和感が表れ、急に咳が出続ける場合もあります。最悪の場合死に至ります。命に係わる身近な疾患と言えるでしょう。
最近では大規模な災害が発生した後、避難先でエコノミークラス症候群に罹患する被災者が後を絶ちません。特に平成28 (2016) 年に発生した熊本地震では、建物の倒壊を避けるために車中泊をしていた被災者がエコノミークラス症候群で亡くなった例もあります。熊本地震では、震災による直接死より避難先でのストレスや病気による震災関連死が多く発生しました。その中でもエコノミークラス症候群は一定の割合を占めています。
決して甘く見てはいけない疾患なのです。
●エコノミークラス症候群の予防法
では、エコノミークラス症候群に対して具体的にどのような予防法があるか挙げていきたいと思います。
1. 体操
簡単に思われるかもしれませんが、最も効果的な予防法です。端的に言えば、動かずに同じ態勢でいることこそがエコノミークラス症候群の要因なのです。そのため、予防には適宜足を動かす必要があります。移動中は以下の動作がやりやすいと思います。
・よく足首を回す
・ストレッチをする
・ふくらはぎを揉む
もちろん、このように体を動かすためには広いスペースが必要です。自動車移動ではパーキングエリア等での休憩中に少し歩いたり上記の動作を実践できると思いますが、飛行機や列車移動の場合、席のグレードにも依ってはスペース上難しいかもしれません。
2. ストッキング
そうした移動中でもエコノミークラス症候群の予防法はあります。市販の着圧ストッキング(サポートストッキング)を着用することが予防に有効です。特に女性はテレビコマーシャルやドラッグストアなどで目にされた方は多いはずです。
また、血栓症の予防に医療用のストッキングが使用されることがあります。これは弾性ストッキングと呼ばれます。こちらは市販のストッキングとの大きな違いとして横糸が編み込まれており、圧迫圧が足にしっかりと掛かるように製造されています。血栓症の予防を目的としている場合、軽圧のストッキングが主に使用されます。
鉄道での長時間移動が主流のヨーロッパでは旅行者用として軽圧の弾性ストッキングが販売されています。
市販の着圧ストッキングと医療用の弾性ストッキングの大まかな違いは以下の通りです。
|
サポートストッキング |
弾性ストッキング |
価格 |
千円から5千円 |
3千円から1万円 |
圧迫力 |
軽圧 |
軽圧から強圧まで用途によって多種多様 |
選び方 |
靴のサイズ等を目安 |
足首、ふくらはぎの周径でサイズを決定 |
耐久性 |
長く持ちにくい |
長期間持つ |
対象・目的 |
むくみ改善、血液の還流を促進 |
下肢静脈瘤やリンパ浮腫の治療、血栓症予防 |
一般的に市販の着圧ストッキングは基本的に靴のサイズを基準としており選びやすくできています。その一方で、医療用弾性ストッキングのサイズを選ぶ場合には必ず足首やふくらはぎの周径を測る必要があります。購入される際は、慎重に選びましょう。
また、弾性ストッキングは一般的なストッキングに比べて生地が硬く、特に初めて着用する際は履きづらく感じ苦労されるかもしれません。ただ、一般の着圧ストッキングのように弾性ストッキングを引っ張りながら履くことはお勧めできません。100円ショップで扱っている炊事用のゴム手袋を着用し、掌でたくし上げるように履くとストッキングは持ちます。
医療用弾性ストッキングは使用上禁忌もありますので、特に中圧以上のストッキングは医師にご相談の上で使用されることをお勧め致します。
3. 予防薬
簡潔に言えば、エコノミークラス症候群予防用の市販薬はありません。エコノミークラス症候群発症後に治療用に使用される場合に薬を使用することがあります。ヘパリンの点滴とワーファリンの服用を合わせながら医師の診断で治療を行います。ヘパリンもワーファリンも抗凝固薬です。血栓を形成させない、つまり血液が固まらないようにするための薬ですので、出血がある場合は血が止まらなくなるなど、使用にはリスクがあります。 エコノミークラス症候群と疑われる症状が実際に現れた場合は、医師へご相談下さい。
4. その他
その他に予防に効果的なグッズとして、飛行機のエコノミークラスや一般的な列車の席でも使えるフットレストがあります。フットレストには床に置いて使用するタイプの製品と吊り下げ型の製品があります。膝を曲げた状態で長時間座り続けることを避け、足を高い位置に置くことでエコノミークラス症候群のリスクを軽減できます。
寝台列車や飛行機のビジネスクラスやファーストクラスでは、横になったり脚を伸ばせるスペースがあります。エコノミークラスではスペースがあまりなくても、フットレストを使うだけでも快適さは変わってきます。
また、エコノミークラス症候群予防のためには、できる限り水をこまめに補給しましょう。体内の水分が少ないと血液が濃くなり血栓ができやすくなります。但し、利尿作用があるコーヒーや濃いお茶は体内の水分を排出しますので、かえって良くありません。ご注意ください。
夏休み中、帰省や旅行のために自動車で移動される方は高速道路等で長距離の渋滞に巻き込まれる可能性があります。ですので、適宜パーキングエリアで水分を取ったり、脚をよく動かしてエコノミークラス症候群を予防しましょう。
参考文献:
産経WEST 4月26日 エコノミー症候群97人、車中泊で拡大?…入院必要な重症者35人、対策急がなければ!
https://www.sankei.com/west/news/160426/wst1604260015-n1.html
国立循環器病センター 循環器病あれこれ [78] 肺塞栓症
http://www.ncvc.go.jp/cvdinfo/pamphlet/blood/pamph78.html
- 2019.08.27
- 11:47
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